かるひぽの日記

モラトリアムという名のサナトリアム

エストニアに学ぶ電子政府の未来

これは昨年の高校の文化祭で発表するために書いた文章です。締め切りに間に合わず発表できなかったので供養します。

書いた当時高校生であるのもあり稚拙な内容ではありますがご容赦ください(マイナンバーの本すら買っていないのは本当にひどい)。ミスの指摘や反論などは遠慮なくどうぞ。なお前述の通り2018年のものなので状況が今とは異なっているかもしれません。

 

 

本文

電子政府 

-エストニアと日本(世界最先端IT国家)-

 

国際的にみても、我が国は、世界最先端のIT国家としての地位を失い、ICT世界競争力ランキングにおいて、多くの国の後じんを拝している。(中略)今まさに、(中略)課題先進国である我が国こそが、ITを経済成長のエンジンとして位置付け、我が国の経済再生に貢献させるとともに、震災からの復興という喫緊の課題を含め、課題解決の重要なツールとして、積極的かつ果敢にITを利活用することを宣言するときである。そのために、世界最高水準のIT社会をIT利活用においても実現することを目指し、早急に取組を開始するとともに、我が国が、課題解決の処方箋を世界に発信する課題解決先進国となり、IT利活用による課題解決の成功モデルを世界に提示し、国際展開することで、国際社会にも貢献していくこととする。 

 

―世界最先端IT国家創造宣言https://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/kettei/pdf/20130614/siryou5.pdf

 

2013年、日本政府はIT戦略の基本方針である「世界最先端IT国家創造宣言」を閣議決定した。冒頭の引用はその基本理念の一部である。さらに2018年、政府は

 

国際的にIT国家としての日本の位置付けを見ると、モバイルブロードバンド普及率やインターネット速度等で上位となるなどインフラ整備面では力強いデータがある。他方、電子政府やオープンデータについては、徐々に改善しているものの、更に上位を目指す余地が残されており、行政手続のオンライン利用を含め、IT・データ利活用の面で官・民が共同で取り組むべき課題は多い。

 

として「世界最先端デジタル国家創造宣言」を策定した。2018年、国連の「E–Government Development Index」で日本は10位に位置付けられてはいるが、上記の通り電子政府という点についてはこの分野において先進的な数ヶ国に大きく水をあけられている。

 

電子政府とは政府の機能や行政サービスに情報技術を導入し、効率化や透明化などを求める行政機構のことである。現在、世界の多くの国が電子政府の導入を進めている。電子政府の形態によっては、行政手続きだけではなくインターネット投票のような政治に関する事項、インターネットバンキングや医療サービスなどの民間事業、そして教育分野などへの応用も可能である。

 

この研究では、電子政府について現在世界の最先端を行くエストニアの事例について『未来型国家 エストニアの挑戦』(ラウル・アリキヴィ/前田陽二 インプレスR&D 2017年)という書籍をもとに紹介し、それを踏まえ日本が電子政府を推進していくにあたっての課題や方法などについて考察する。

 

 

エストニアの基本情報

人口 約130万人

面積 約45000㎢

人口密度 約29人/㎢

森林割合 約50%

首都 タリン

公用語 エストニア

通貨 ユーロ

政治 共和制・議院内閣制・一院制

軍事 NATO加盟国・徴兵制あり

GDP 233億ドル

 

エストニアの歴史

20世紀に入るまで、現在のエストニアとなる地域はドイツ、デンマークスウェーデン、ロシアの支配下に置かれていた。1918年に第一次世界大戦の混乱に乗じて、ラトヴィア、リトアニアとともにロシアからの独立を果たす。しかし1940年、モロトフ・リッベントロップ協定の秘密議定書に基づき、エストニアを含むバルト三国ソ連邦に併合された。その後ソ連邦支配下で40年弱を過ごすが、その間バルトの民族文化は受け継がれていった。1985年に書記長に就任したゴルバチョフによるグラスノスチペレストロイカを利用し、民族運動を拡大、ついには「歌う革命」、「バルトの道」といった象徴的な抗議活動からソ連邦の存立を揺るがし、1991年にバルト三国は再独立を果たした。独立後はNATOEUに加盟した。

 

エストニアのICT戦略の歩み

1991年の独立直後エストニア政府はICTとバイオテクノロジーに資本を集中させることを決定した。

1996年からタイガーリーププロジェクトが始まり、エストニア国内のすべての学校がインターネットに接続された。また、農民がコンピューターを安く買うことができるような施策もあった。

1998年にエストニア情報ポリシーの原則が議会で採択され、エストニアのICT戦略の方針が定められた。

2000年、閣議の電子化が開始された。

2001年、X-Roadというデータ交換レイヤーが開発実装された。これは各省庁が別個に保管しているデータを安全に素早くやりとりするための情報交換システムである。

2002年にはeIDカードの配布が開始された。eIDカードは15歳以上の全国民に取得が義務付けられていて、2007年にはすでに発行数が100万枚となった。

2002年から2004年にかけて、民間企業によりThe Look@Worldプロジェクトというインターネット利用に関する教育プロジェクトが10万人に向けて無料で開かれた。

2005年にはインターネット投票が、2008年には電子医療システムが開始された。

これらは経済通信省の情報システム局(RISO)がシステムの開発管理を管轄し、外郭団体のエストニア情報システムセンター(RIA)が助言や監視をして推進されてきた。

 

電子政府の仕組み

エストニア電子政府はRIHAやX-Roadなどの約10項目の共通基盤があり、新たなサービスを展開したいときは、この共通基盤上で動くアプリケーションを開発する。このシステムによりサービスの開発コストは抑えることができている。

 

RIHAとは国家の情報システムの管理システムの事で、システムの透明性、データベースの相互運用性を確保する目的で設立された。エストニア電子政府システムではデータを各組織ごとに保管していて、他の組織が複製することを禁じている。そのため他の組織のデータを利用したサービスを開発する際には、個別の契約が必要となる。

RIHAのデータは基本的に公開されており、データを閲覧したい人のために各組織の情報システムの管理者はデータを常に最新の情報に更新し、またデータベースの形式やアクセス方法を明記することが義務付けられている。

RIHAにより各システムの管理者はデータがどのようにやりとりされているか、監視することが可能になる。そして、別個に管理されているデータの全体像を定期的に把握できるようになり、システムの問題点や改善の余地などを発見することへと繫がっている。

 

X-Roadとは別個に管理されている政府のデータベースに、安全かつ容易にアクセスできるようにするために構築されたデータ交換基盤である。

その交換方法とセキュリティーシステムについて詳述する。まずX-Roadには必ずファイアウォールでもあるセキュリティーサーバーを経由して接続する。情報はセキュリティーサーバー間で暗号化され署名をともなってやりとりされ、その署名鍵はX-Roadセンターに登録される。セキュリティーサーバーはすべてのメッセージを暗号化して保存し過去の利用や意思決定をいつでも確認できるようにしている。その暗号化に際しX-Roadセンターが中間ハッシュ値に定期的にタイムスタンプを施し改竄の検出を可能にしている。

情報システム側にはアダプターサーバーがあり、セキュリティーサーバー・X-Roadとデータベースの間で言語の変換を行っている。

先述したX-RoadセンターというのはX-Roadによるやりとりを法的に保証する機関で、X-Roadサーバーの認定やX-Roadの監視などを行っている。普通、データベースへのアクセスは各ポータルサイトからアプリケーションを通じて行うが、センターの職員は直接ネット上で操作することができる(当然ログは管理される)。                                                                   

X-Roadの主要なセキュリティーとしてもう一つ、2段階アクセス権制御メカニズムが挙げられる。これはデータへのアクセス権を組織間と組織内で分離し付与することである。あるサービスのためにデータへのアクセス権を求められた場合、データを管理する組織はアクセス権を相手の組織に対して認証し、アクセス権を認められた組織は、組織内で適当な所属員にその権利を付与する。このシステムにより内部の脅威に既存システムへの影響が少ないまま対処することが出来ている。

 

電子政府による恩恵

まず、この電子政府システムによる各種サービスはeIDカードに支えられていると言ってもよい。

eIDカード(以下、カード)とはエストニアの15歳以上の国民に取得が義務付けられている電子身分証明書の事である。このカードはひとりひとりに出生時に割り振られる国民ID番号をもとに発行される。カードにはICチップが内蔵されていて最低限の個人情報と認証、署名用の証明書が含まれている(ユーザーが希望する場合、電子機能を停止することも可能)。

 

このカードをカードリーダーへ接続しPINコードを入力またはSIMカードを利用した通信によるモバイルIDを利用することで、ポータルサイトから自分のデータにアクセスできデータの使途などをチェックすることも可能である。

 

このカードでは公開鍵暗号方式による署名が可能である。この方式では偽造が難しく、契約も簡単であるためエストニアでの契約の多くが電子署名で行われている。

これらの機能は政府と個人の間だけでなく、企業間や個人間などでも利用できる。

 

このカードによってできることの一部を箇条書きであげていく。

・会社登記

会社登記ポータルを利用することで最短9分25秒で会社を設立できるという。ほかにもこのポータルで会社の年次報告や各種変更手続きも可能である。

・土地登記

Webアプリケーションとしてすべての不動産や土地区画の情報が登録されている電子土地登記簿がある。不動産の所有者のリストアップ、境界の明示がされ、また不動産購入者への情報提供も行われる。相続等に伴う土地登記もオンラインで可能である。

他にも納税の申告や出生手当の申請などの行政サービスもオンラインで受けることが可能である。

・各種証明

運転免許、健康保険証、定期券などのデータも保存活用することができ、カードとPINコードさえあればいつでもこれらを証明できる。

ちなみに運転に関連するところでは有料路上駐車の料金は自動で口座から引き落とされるそうだ。

・医療サービス

エストニアでは健康保険、過去の医療記録、処方箋、X線写真などの画像などの情報がすべて共有されていて、旅先など国内のどこの病院でも適切でスムーズな医療を受けられる。医療機関の予約もオンラインで可能である。

将来的には患者の健康状態を遠隔で監視し医療コストを削減することを目指している。

・インターネット投票

2005年の地方選挙でインターネット投票(I-Vote)が実施され、10000人弱が利用した。全国規模のインターネット投票は世界初の試みでその後も国会議員選挙やEU委員選挙でI-Voteが実施された。最新の2015年の国会議員選挙では総投票者数の3割がI-Voteを利用したという。

投票方法は簡単で専用サイトからカードリーダーまたはモバイルIDで本人確認をし、候補者を選択し電子署名のPINコードを入力するだけである。インターネット投票期間中(投票日の4日前まで)は何度でも投票先を変更することができ、実際の投票日に紙で投票を行った場合は紙の投票がI-Voteに優越する。

投票内容は選挙管理委員会の公開鍵で暗号化する方式で開票時には署名を削除し秘密投票を守る仕組みである。

I-Voteの成立によりスマートフォンとインターネットさえあれば世界中のどこからでも投票に参加できるようになった。他にも一回の選挙で、選挙にかかわる労働時間や人件費を11000時間分削減することができ、公費の節約にも繋がっている

 

国民が電子政府を利用して政治にかかわるものとしてOsaleというe民主主義のための参加型ポータルサイトがある。このポータルサイトでは政府が発表した法律案について企業、市民団体、国民が意見を投稿できるものである。ユーザーは新たな法案やアイデアなどについて会議を立ち上げたり提案を提出したりできる。これらはほかのユーザーとの議論や投票などののち政府が公式回答を行う。また、政府機関には政策文書や開発計画などの公開が推奨されていてユーザーはそれを閲覧することができる。

・インターネットバンキング

エストニア国民の半分がインターネットバンキングを利用している。eIDカードの信用が高いため多額の取引が可能で、また認証サービスを行うポータルサイトから電子政府に接続される。

・eKool

エストニアの学校のICT機器普及率は100%で独立以来ICT教育に力を入れてきた。前述したタイガーリープ財団(現在ではIT企業が資金拠出している)によりプログラミング教育なども進んできている。

 

最近エストニアの学校(幼稚園も含む)ではeKoolという民間のサービスが次々と採用されている。eKoolは学校と生徒・保護者の間を結ぶコミュニケーションツールで、教員は連絡事項や生徒の成績、指導内容ヤ出席情報などの情報をアップロードし保護者はそれを確認したり子供の様子などを教員に相談したりできる。生徒の方も学校側がアップロードした行事予定、休講情報、宿題の情報などを確認する。

 

エストニアにはエストニア情報教育システム(EHIS)というシステムがあり、教育関連の全てのデータが登録されている。教員の人事や教育政策の判断材料に役立ち、学生は自分のデータにアクセスして卒業証明の発行を行うこともできる。

 

学情報システム(SAIS)という、出願・選抜・入学の諾否までがスムーズに行えるシステムがあり、2007年度のエストニアの高等教育機関の新入生の約55%がこのシステムを利用している。

 

これらのことはすべて、カードやそれに基づくモバイルIDで利用可能である。

 

e-residency

エストニアでは電子政府サービスの利用者を増やすためe-residency cardを発行し、外国人を含むエストニア非居住者に発行している。エストニア国外にいても企業やインターネットバンキング、電子署名をはじめとするサービスを利用できるもので、仮想エストニア国民としている。

X-Roadの国際展開を目指すなどエストニア電子政府の目は国外にも向けられている。

 

その他のエストニア電子政府の特徴

エストニアでは7年ごとに一貫した戦略を定め13年以上経過した技術を使わない。個人情報の取り扱いについても明確に取り決められていて、情報公開も進んでいるので不正が行えないようにしている。

しかしながら、エストニアにもサイバー攻撃の脅威はあり、実際2007年にはDDoS攻撃が行われニュースポータルやバックボーンネットワーク、インターネットバンキングが一時機能停止に陥った。幸いデータベースへの攻撃はなかった。その後のエストニア政府のサイバー攻撃への対策としてはサイバー犯罪へ対処する法的枠組みを作り、タリンにNATOサイバー防衛協力センターを設立したことが挙げられる。またサーバーキャパシティーの強化やネットワークの強化も行っている。また、他国の侵攻を受けた時のために在友好国の公館に一部データを分散保管している。

 

エストニアでは国民ID番号の歴史が長いことから番号は氏名と同程度に考えられている。電子署名の方が紙の署名より安全と思われているなど国民のITへの意識は高い。

 

日本

2016年1月、日本でマイナンバー制度の運用が開始された。日本の住民にひとりひとりに識別番号が割り振られ、行政の効率化が図られた。

それから3年近くが経過しているがマイナンバーカードの普及率は12%程度にとどまり、国民もその恩恵を感じているとはいいがたい。一部分野ではむしろマイナンバー制度の導入により負担が増えている公的機関の部署もある。関連法案の審議中には連日話題に上っていたが、現在ではそれもまれである。

しかしながらマイナンバーによる日本の電子政府システムあるいは構想はかなり多くの機能が備えられている。確かにエストニアの場合も普及と成功までに5年程度かかっているが日本が2年後にその域に達しているとは到底思えない。この差はどこにあるのかについて論じていきたい。

 

まず、マイナンバー制度の概要について内閣府のWebサイトから引用する。

 

マイナンバーは、社会保障、税、災害対策の3分野で、複数の機関に存在する個人の情報が同一人の情報であることを確認するために活用されます。

これまでも、例えば、福祉サービスや社会保険料の減免などの対象かどうかを確認するため、国の行政機関や地方公共団体などの間で情報のやりとりがありました。

しかし、それぞれの機関内では、住民票コード、基礎年金番号、健康保険被保険者番号など、それぞれの番号で個人の情報を管理しているため、機関をまたいだ情報のやりとりでは、氏名、住所などでの個人の特定に時間と労力を費やしていました。

社会保障、税、災害対策の3分野について、分野横断的な共通の番号を導入することで、個人の特定を確実かつ迅速に行うことが可能になります。 これにより、行政の効率化、国民の利便性の向上、さらに公平・公正な社会を実現します。

マイナンバーのメリットは、大きく3つあります。

1つめは、行政事務を効率化し、人や財源を行政サービスの向上のために振り向けられることです。

2つめは、社会保障・税に関する行政の手続で添付書類が削減されることやマイナポータルを通じて一人ひとりにあったお知らせを受け取ることができることや、各種行政手続がオンラインでできるようになることなど、国民の利便性が向上することです。

3つめは、所得をこれまでより正確に把握するとともに、きめ細やかな社会保障制度を設計し、公平・公正な社会を実現することです。

 

 

2017年1月からマイナポータルというオンラインサービスが開始され特に育児分野でのサービスが拡充されている。e-Taxもマイナポータルから利用できるようになっている。情報のやり取り履歴も閲覧できるようになっている。

専用のアプリとマイナンバーカードがあればAndroidスマートフォンからもログインできる。

 

マイナンバー制度の抱える問題

 

現行制度において最も大きな課題はマイナンバーカードが普及していないことだろう。このことが多くの問題を引き起こしていると言える。例えば、かかるコストに比べてリターンが少ないため、民間企業の参入を妨げているし、実際にカードを持っていないと国民も制度によって受ける恩恵を理解しきれていないし、興味関心も薄い。

この問題の解決法として最も手っ取り早いのは取得の義務化である。エストニアが成功したのもこのことによる部分が大きい。現行そうではないのは制度の様子見という部分が大きいのだろうが世論の反対も考慮に入れているのだろうか。

もちろんカードの取得義務化以外にも方策はある。カードを持つメリットを高めることであり、例えば運転免許の情報を紐づけることだ。現在身分証明書として運転免許を携帯する人が多く、これをマイナンバーカードに組み込めば普及に加え、警察業務の効率化や自動車開発への転用も期待できる。健康保険証などの機能も統合すれば複数の証明書を使い分ける必要がなくなり、国民にもわかりやすいメリットとなる。健康保険証の機能については2020年度に導入される予定である。

他のサービスの拡充と広報も重要だろう。すでに行っているテレビコマーシャルなども継続し、またもっと多くのメリットを発信していくべきである。

マイナンバーカードの流出は危険であり控えるべきという法律と広報活動はマイナンバーカードへの不安感を煽り普及を阻んでいるように思う。エストニアでは番号は氏名とおなじようなものと思われ、積極的に公開する必要はないが必死に隠す必要もない。マイナンバーもそれ自体が知られるだけでは問題はない。公的機関から他の情報と紐づけられて漏洩する場合は当然問題である。マイナンバーカードを盗まれるとリスクはあるが、顔写真付きでオンラインサービスの利用には暗証番号が必要なのでクレジットカードと同程度のリスクであろう。しかしながら、現行の法律では特定の場合を除きマイナンバーを他人に教えてはいけないし、広報もそのことを強調していて、国民はマイナンバーのみの漏洩にも過敏になっている。

ただし、マイナンバーカードはNFCで読み取れる機能を搭載したこととPINコードを入力せずに自治体コードと誕生日で決まる有効期限を読み取ることができることで、所有者の意図しないところで居住している自治体や誕生日を読み取られてしまう恐れがある。セキュリティ的な問題に直結はしないが国民は不安を感じるだろう。

 

マイナンバーカードの機能をスマートフォンで使えるようにすることも利便性向上の点では大きい。政府はすでに東京五輪に間に合わせることを目指してSIMカードへの機能搭載のための法改正を検討している。

 

国民意識の改革も大きな課題だろう。国民の行政のデータ管理に対する不信感やいわゆる「デジタル」に対する抵抗感を払拭し、「デジタル」の利便性を提示しなければならない。これにはまず、行政や政治家が率先して電子化に踏み切ることが良い例となるだろう。国会・閣議のペーパーレス化・電子化や中央官庁の資料のデジタル化、情報公開の拡大を推し進めることなど多くの方法がある。特に情報公開は電子政府の安全性の担保となるので積極的に進めた方が良い。都道府県庁や市区町村役所もこの機会に古いアプリケーションの一新を図りたい。

国民向けに電子政府の利用の説明会のようなものを開催したり、学校の授業や課外学習に取り入れたりするなど国民に情報教育を施すのも国民の理解関心を得るのに役立つだろう。これに関連してデジタルディバイドの克服も求められる。本来日本の国土では、農村部や離島の住民にこそ電子政府の恩恵は大きい。しかしこうした地域では高齢者が多くまた「デジタル」も触れる機会に乏しい。この問題が克服できれば行政の負担も減らすことができるほか、地方創生の一助ともなりうるが容易ではない。

 

マイナンバー導入の際、度々批判を受ける縦割り行政の改善が期待されたが、いまだに縦割り行政はマイナンバー制度の課題として横たわっている。

すでに2017年11月以降、マイナンバーによる添付書類の省略を目指した情報連携は本格運用されているが、依然自治体では多くの事務について添付書類を求めている。これは情報連携の複雑さが一因となっていてデータ標準レイアウトや運用ルールの不備も指摘されている。

今まで情報公開に消極的だった日本の省庁は情報共有についても提供者と照会者でデータについての情報伝達がうまくいかないことも多い。そもそも縦割り行政以前に、国が自治体の実態を把握していないこともあり事態は深刻である。

現状日本の情報系の業務は、総務省経済産業省そして文部科学省あるいは内閣府で別々に行われている。また各省内でも部署ごとの連携が取れているとはいいがたい。一案にはこれらを統合した省の新設も唱えられるが、ともかく連携は不可欠だろう。

 

他の問題としては仮にインターネット投票など国民のアクセスが一度に集中するサービスを導入した場合、サーバーが維持できるのかといった疑問や、データへのサイバー攻撃への対策への疑問が指摘されている。

マイナンバー交付開始時から自治体職員の不手際によるマイナンバーの誤通知や情報の悪用も起こっている。こういったことを無くしていかなければ国民の支持は得られない。

 

私見

ここまでマイナンバーの問題点を指摘してきたが、個人の意見としてはマイナンバーに期待するところは大きい。むしろマイナンバーを核とした電子政府の構築に成功しなければ日本は世界からますます取り残されてしまうだろう。もし上記の問題点が改善され電子政府が成功すれば、行政の効率化や国民生活水準の向上だけではなく、日本の企業や官庁に残る旧態依然とした体質が改善されるかもしれない。

エストニアでは電子政府の発展と並行して起業支援も手厚く行われている。Skypeエストニア発祥の企業の代表格だが、この国はどうしたら生き残ることができるかを理解している。資源がない日本は技術立国の国であるとしばしば説明されるが、近年は新しいものを受け付けない保守的な風潮があるのではないだろうか。

もちろん、電子政府が直接種々の問題の解決になるわけではない。しかし、成功すれば日本全体にいい影響を与え他の問題を解決するツールになりうる。

エストニアではX-Roadの導入により昨年1年間で804年分の労働時間が節約されたという。日本であれば官僚の残業の問題やブラック企業の問題が解決に向かうのではないか。

不要な事務作業は極力省略すべきだ。

現在の政治家が望んでいるかは別として、度々問題視される若者の政治意識もインターネット投票が施行され、候補者の主張が届きやすくなれば多少は改善されるだろう。

2020年の東京五輪開催は政府システム一新のいい機会だと考えていたが今から間に合うかは微妙だ。勢いも必要だろう。もちろん慎重な検討は必要だが、次々と新しい成果を出せば普及率や興味関心も高まるだろうし、民間の力も借りやすい。民間の力はマイナンバーカードやマイナポータルの仕様を公開することが必要だ。情報公開という点にもつながってくるが、現在マイナンバーカードに関連する技術はほとんど非公開で民間の参入やシステムの不備の指摘、改善の提案などが受けられない。いずれにしろ、多くの人には身分証明書以上の価値がない現状を早急に打破する必要がある。

まあ、正直なところ今の行政のITへの意識では道のりは長いだろう。

 

おわりに

エストニア電子政府について世界で最も革新的で挑戦的な国である。しかし技術面で日本が遅れをとっているわけではない。アイデアと計画性、実行力の差である。エストニアでは多くの人が一つ一つの問題の改善に取り組み、ここまでの成果を手にした。

行政が組織間の連携を密にし、国民に電子政府の説明を続けていけばある程度の成果は見えてくるはずである。

電子政府の可能性に期待している。

 

参考文献

ラウル・アリキヴィ/前田陽二(2017)

『未来型国家 エストニアの挑戦』インプレスR&D『マイナンバー制度の現状と未来について

内閣官房 番号推進室(2017)「マイナンバー制度の現状と将来について」<http://www.cao.go.jp/bangouseido/pdf/20170314siryou_00-03.pdf>

REPUBLIC OF ESTONIA INFORMATION SYSTEM AUTHORITY 「X-ROAD」<https://www.ria.ee/x-tee/fact/#eng>2018年9月6日閲覧

マイナンバー制度【内閣官房内閣府】公式(2017)「マイナちゃんに聞いてみよう!マイナポータル!!」<https://www.youtube.com/watch?v=4AT08KYZYNM>2018年9月6日視聴

総務省マイナンバー制度とマイナンバーカード」<http://www.soumu.go.jp/kojinbango_card/index.html>2018年9月6日閲覧

日経xTECH「使えないマイナンバー」2017年12月18日~20日連載<https://tech.nikkeibp.co.jp/it/atcl/column/17/121100574/>2018年9月6日閲覧

 

2018年9月6日執筆

 

電子政府について調べてみましたがよくわかりませんでした。でも、私は調べていて楽しかったです!いかがでしたか?皆さんもぜひエストニアの電子国民になってみてください!

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